設立趣意

人類の歴史において科学研究が文明の発展に寄与し、今日の文化的生活の基礎を築いてきたことは自明である。その土台として研究者と社会との信頼関係が存在することが必須条件であるが、それが昨今の諸々の出来事、事件によって揺るがされ、わが国の研究活動全般に対して国内外から疑惑の目が注がれていることに我々は深い憂慮を抱く。
問題は続々と表面化する研究不正である。それによって社会が研究者に対して疑惑の念を深めるのは当然の帰結であるとは言え、これに伴って研究者に対する規制強化が、所属の研究機関および学会等を通じて進み、それが研究者の自律への芽を摘み取り、研究への自信が萎えそうになる状況を目にするにつけ、今後のわが国のアカデミアにおける研究に危機感を覚えずにはいられない。
本来の理想からかけ離れていく、研究を取り巻くこのような環境を生んだ背景には、残念ながらアカデミア側に明らかな行動不足があったことは否めない。プロフェッショナル集団としての自負、この自負に立って求める研究の自由、だからこそ生じる責任性を強く意識すれば、研究者には明確な意志と行動が必要であるとの認識に欠けていたと反省する。
先人たちが英知と努力を結集してモノづくり日本の信頼性を世界の範へと高め得たことを思えば、研究成果に揺るぎない信頼を得るには、研究者自身がそれに向けて英知と努力を尽くす必要があるものと確信する。その土台となる自律と自信を研究者が抱けるよう関係者各位の知恵と経験を結集したいと願って、我々は全国的な活動を目的とした本組織を設立することをここに提起することにした。

平成28年2月15日

理念

科学が質の高い研究を通じて人類の福祉と幸福に貢献していく上で極めて重要なのが専門家である研究者の自信と自律、研究の自由である。これらの基盤となるコンピテンシーとしての倫理的素養を研究者が獲得する上で必要なのが、研究者自らが企画する公正な研究に関する国際的議論を通じた学びの環境である。

目的

  1. 研究倫理とその教育に関するグローバルな共通理解を推進するために国内外に議論と実践の場を設ける。また、国際的な議論の場に積極的に参加することを通して国際貢献を行う。
  2. わが国の研究者およびその途上にある者、更には研究を支援する立場の者を対象とした、研究倫理関連教材等の教育手段の提供を通じてグローバルな研究倫理を啓発し、研究機関および各種学術団体の研究活動を積極的に支援する。
  3. わが国に集積された、研究倫理教育のノウハウを以て、世界の隅々まで研究倫理教育が普及されるよう、国際的な協力を行う。
    註:ここで言う「研究倫理」には、研究内容に関する倫理(”ethics”)と、研究に関わる個人や組織等の問題としての倫理(”integrity”)が含まれる。

コア・バリュー

  • AUTONOMY: 研究者の自主的自律的活動
  • COLLABORATION: 研究機関・学術団体・行政府等との相互協力
  • COMMUNICATION: 社会との価値観の共有を目的とする対話
  • GLOBALITY: グローバルな倫理上の認識
  • INCLUSIVITY: あらゆる領域の英知のバランスのよい結集
  • INTEGRITY: 研究者自身による高邁な誠実さの追求
  • INNOVATION: わが国に適した方策の積極的開拓
  • REPRESENTATIVENESS: わが国の英知を代表する取組
  • SUPPORT: 健全な研究者・大学院生の保護・支援
  • TIMELINESS: 時代の進化に即応できる体制

協会の特質

1) 研究倫理に関するわが国を代表する組織として、広く、国内の教育研究機関の参加を土台とする一方、それらを隈なく支援することを組織の使命とする。
参加協力者および受益者として全国の研究者および教育・研究機関等を対象とする。
2) 営利組織および政治からの独立を維持する。
本協会への信頼性を万人から広く得られるよう、利益相反の除去に努める。
3) 活動に当たってはジェンダー・年齢等の差別を排除する。
思想および活動目的に偏りを持たせない。
4) 活動に当たっては適材適所に外国の有識者を含める。
グローバルな視点を欠かさない。本協会の存在を海外に知らしめる。
5) 会費、利用料、寄付を経済的基盤とする。
「貧すれば鈍する」事態に陥ることのないよう積極的な活動を行う。
6) 運営・経理の透明性を確保する。
「社会からの信頼が存続の命綱」との理解を徹底する。
7) 政府(文部科学省・内閣府等)・学術団体・大学等教育研究機関・学協会と連携する。
多彩な意思疎通のルートを通じて、わが国の各種規範・ガイドライン等と切れ目なく一貫性を保つことができるように相互協力を行う。
8) 役員等の執行部構成員は報酬を得ない。
本協会の目標が、その組織存続自体へと変貌することがないよう、また国民から広く信頼を得られ易いよう、ボランティア精神を協会の中軸に据える。但し、交通費や資料調査および事務作業などの実務に対する正当な報酬は支払うものとする。
9) 研究倫理に関する研究を振興する。
目覚ましく進歩する科学に即応した研究倫理を確立していくための知見を得ることを目的に研究倫理に関する研究を振興する。
10) 将来わが国の研究倫理を担う人材を育成する。
わが国における研究倫理を将来にわたって充実,発展させていく上で必要となる人材を育成する取組を行う。