中等教育における研究倫理:基礎編 p6

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ただし、どのような研究を提案してもよいというものではありません。人や動物に危害を与える恐れのあるもの、地球環境の破壊が懸念されるもの、プライバシーの侵害につながる可能性が高いものなどは、法律や指針により制限されています。研究の実施には、安全対策やプライバシーへの配慮が必要になります。また、あまりに危険な研究は禁止の指導をせざるを得ません。そこで、以下に、研究計画に対する注意点を述べます。

人を対象とする研究:
人を対象とする研究のうち、生物学的な研究や新たに開発した装置の試作品を第三者に試してもらうなどは、特別な委員会を設置している大学・病院・研究所などでないと実施できない場合があります。その委員会では、研究者から事前に提出された研究計画書を審査しています。学校にこのような委員会がない場合、「研究の指導者」や「研究分野に精通している専門家」に相談してください。アンケートなどの調査の場合は、事前にどのような調査を行うかを対象者によく説明して納得してもらうことはもちろんですが、結果の公表の際にはプライバシーに十分配慮して、個人が特定できないようにすることと「守秘義務」といって回答を他の人に伝えないことが重要です。
動物を対象とする研究:

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動物を対象とする研究は、中高生の研究テーマによく見られます。ただし、苦痛を感じる神経系の発達した脊椎動物は、その扱いに特に注意が必要です。実験によって動物が死んでしまうとか、死ななくとも重大な障害が残るような研究は、動物の健康と動物に対する福祉(アニマルウェルフェア)に対する配慮が不十分といえます。研究計画の中では、可能であればできるだけ脊椎動物を使わず、昆虫や微生物などに置き換える(Replace)ことができないか考えましょう。用いる個体の数をできるだけ減らし(Reduce)、与える痛みや苦痛を最小限に抑える(Refine)ことを考えて計画します。これらを動物実験の3Rの原則といいます。また、実験を行うときには対象の動物に十分な敬意を払うことが求められます。
危険性のある生物や生物由来の物質を使った研究:
微生物(細菌、菌類、寄生虫など)、組換えDNA技術、ヒトや動物の組織や血液などは、危険性のある生物由来物質です。実験用の大腸菌や酵母のようなモデル微生物は、危険性の低い生物ですが、「研究の指導者」から事前トレーニングを受けた後、適切な実験室内で使用しましょう。毒性のあることが分かっている生物材料や病原微生物を対象とする研究は、研究を行う生徒や周りの環境を守るため、必要な実験設備や装置を使用します。野外から未知の微生物を単離して研究する場合は、危険性が判断できない微生物が混じっている可能性が排除できませんので、必要に応じて「研究分野に精通している専門家」からの助言を得ます。遺伝子組換えを行う場合は、「研究分野に精通している専門家」の指導のもと、適切な実験手法などの教育訓練を受けた後に行う必要があります。
危険な化学物質や危険な装置を使った研究:

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危険な化学物質や危険な装置を使用する研究や危険な作業を伴う場合は、「研究の指導者」から教育訓練を受けた後、その監督のもとで行ってください。危険な化学物質とは、毒物・劇物、その他反応性、可燃性、腐食性の薬品などが含まれ、危険な装置には火器、爆発物、ドローンなどが含まれます。また、日常生活で通常考えられるものより強い光(レーザ光など)を使った研究は「研究の指導者」とともに、そのリスクを評価し、研究を行う生徒が安全に実験できるように配慮します。放射性核種、ラジオアイソトープ、X線などを扱う研究は、「研究分野に精通している専門家」の意見を聞いて行いましょう。
野外での研究:
研究でフィールドワークを行う際には安全に配慮し、そして野外ならではのマナーを守る必要があります。当日の気象情報を事前によく確認し、柔軟な行動計画を立てておきましょう。また、高温注意報が出ているときには熱中症にならないような対策も必要です。野外では様々な野生動物と出会う機会があります。特に危険な動物の生息域がフィールドとなる場合には、「研究の指導者」や「研究分野に精通している専門家」から安全対策に関するアドバイスを受けましょう。研究のためのサンプルを野外から採取するときは、事前に許可取得が必要な場合もありますので、「研究の指導者」や「研究分野に精通している専門家」に相談してください。