2025年度
| 氏名(ふりがな) | 康 凱翔(こう がいしょう) |
| 所属機関・部局・職名・学位 | 県立広島大学 高等教育推進機構 特命助教 修士(教育学) |
| 参加した国際会議(開催地) | World Conference on Research Integrity 2026 (Vancouver, British Columbia, Canada) |
| 開催期間 | 2026年5月3日~5月6日 |
| 参加目的 | 口頭発表 |
| 発表表題または扱ったテーマ | A Systemic Investigation of Scientific Misconduct: An Agent-Based Simulation of the Interplay Between Leadership, Education, and Incentive Structures |
| 報告 ①発表等内容の概要 本発表は、エージェントベースモデル(ABM)を用いて、研究室における研究不正の発生メカニズムと研究倫理教育の効果を検討したものである。研究不正を個人の倫理意識の問題だけでなく、出版圧力、研究室内の規範、PIと若手研究者の関係、社会的学習が相互に作用する組織的現象として捉えていた。 分析の結果、従来よく用いられる「不正発生率」や「不正発生件数」では、倫理教育の効果はほとんど確認されなかった。一方で、「不正戦略を内面化している研究者の割合」という指標で見ると、倫理教育は研究室内における不正行動の伝播や定着を抑制する構造的効果を持つことが示された。また、PIと若手研究者に対する倫理教育の効果には質的な違いがあることも確認された。 この研究は、「倫理教育は効果がない」のではなく、従来の評価指標ではその効果を十分に捉えられていなかった可能性を示している。特に、教育は不正件数を直接減らすというよりも、不正が組織文化として浸透していくプロセス自体に影響を与える点に意義があると考えられる。 ②発表等に対する質疑の概要 質疑応答では、まず、研究倫理教育に投入できる資源が限られている場合、若手研究者とシニア研究者のどちらを優先すべきかという点について質問があった。これに対して、本研究では両者が異なる役割を持つため一律には判断できないものの、PIなどのシニア研究者への介入は研究室全体の規範形成に影響し、若手研究者への介入は不正戦略の学習・拡散を抑える点で重要であることが説明された。 また、モデルにどのような要素を入力しているのかについても質問があり、出版圧力、研究室内の規範、倫理状態、疲労、機会、社会的学習などを組み込み、研究者の不正行動が個人要因だけでなく組織環境との相互作用から生じるように設計されていることが確認された。 さらに、シミュレーション結果の再現性についても議論があり、複数の条件設定や乱数シードによる感度分析の重要性が共有された。質疑全体を通じて、ABMを用いることで、研究倫理教育や研究不正のメカニズムをより動態的に検討できることが共有され、この手法の普及により、今後さらに理論的発展が期待できるとの意見が示された。 特に、従来に扱われて来なかった手法の活用により、反実仮想ができるシミュレーション研究は既有理論枠組みの再検討に新たなエビデンスを提供でき、国内外の研究者から良い反響をいただいた。 ③学会誌への論文等投稿予定 本研究の成果は、Accountability in Researchなどの国際誌に投稿する予定である。 ④その他 今回の学会参加は、助成を受けたことにより実現したものであり、この場を借りて深く感謝申し上げたい。発表を通じて、国内外の研究者と意見交換を行うことができ、自身の研究を今後さらに発展させるうえで有意義な示唆を得ることができた。特に、研究倫理教育の効果測定やエージェントベースモデルの応用可能性について、今後の研究課題を具体化する貴重な機会となった。 | |
